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家族の崩壊と母の闘病

十年前、私たちの家庭は突然崩壊した。父が母と離婚し、家を出て行った瞬間は、今でも鮮明に思い出せる。高校生だった私は、父の背中を見送りながら、心に深い傷を負った。母はその後、弟と私を支えながら一生懸命に生活を築いてくれたが、彼女の笑顔が徐々に少なくなっていくのを見て、私は無力感に苛まれた。
その後、母が病に倒れ、状況はさらに厳しくなった。彼女は闘病生活を送りながらも、私たちに明るさを与えようと頑張っていた。ある晩、私が彼女の横で手を握りながら、「お母さん、大丈夫?」と尋ねると、彼女は優しく微笑み、「大丈夫よ、あなたたちがいるから」と言った。その言葉には、私を思う母の愛が詰まっていた。しかし、その愛は残念ながら、長くは続かなかった。

叔父叔母の訪問と葬儀社との打ち合わせ

母の訃報を受け、田舎に住む叔父や叔母が上京してきた。彼らは葬儀社との打ち合わせに同席し、どのように母を見送るかについて真剣に話し合っていた。私が部屋の隅でその様子を見つめていると、叔母が口を開いた。「やはり、お母さんは父方のお墓に入れたほうがいいと思うの。あの家に嫁いだ身なんだから。」
「お母さんが嫁に来た以上、そこで眠るのが筋よ。それが一番だと思うわ」と言った。その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような思いがした。母が若い頃、私に語ったことを思い出した。「家族はどこにいても、心がつながっているのよ。大切なのは、愛を持って見守ること。」その言葉が、今の私にどれほどの力を与えているかを感じた。

葬儀のスタイルを巡る葛藤

葬儀社との打ち合わせが始まり、窓の外では冷たい風が吹き荒れていた。「どの宗教に則って葬儀を行うか」という問いに、私は立ち止まってしまった。心の中で「母をどうやって見送るべきか」と自問自答していた。母は父の家に嫁いだ身だが、父がいない今、母の実家の墓に入れるべきだという意見も理解できた。しかし、私は母がカトリック教徒であることを知っており、その思いを尊重したかった。
葬儀社の担当者が「それでは、どうされますか?」と問いかけると、私は深く息を吸い込み、心の中の葛藤を整理しようとした。やがて、私は決意を固めた。「母はカトリック教徒だったから、葬儀は無宗教で行いたい。そして、遺骨は父方の菩提寺に納めたいと思っています。」私の言葉に、叔父は驚いたように目を丸くした。「でも、母の実家の墓もあるし、父方の墓に入れるのはどうかと思うが…」と戸惑いを見せた。

母との思い出と心の整理

「でも、母が愛していた十字架のペンダントを身につけていたこと、そして彼女が信じていたことを大切にしたいんです」と私はさらに続けた。叔母はしばらく考え込み、「あなたがそう思うなら、私たちも考え直さなければいけないわね。母さんの思いを尊重することが一番よね」と言ってくれた。その言葉に、私は少しだけ安心した。
葬儀のスタイルが決まるまでの過程は、私にとって非常に辛いものであったが、同時に母との思い出を深く掘り下げる機会でもあった。母が私にいつも言っていた言葉、「大切なのは、心でつながっていること」という言葉が、葬儀の準備を進める中で何度も頭をよぎった。そして、彼女の愛を感じるたびに、私は強くなっていくような気がした。

お別れ会と手元供養

最終的に、葬儀はお別れ会のスタイルで行うことになった。新たな合祀墓を見つけ、納骨することにした。一部は手元供養として、小さなミニ骨壷に納め、私の側で供養することを決めた。叔父や叔母を説得するのは簡単ではなかったが、母の思いを理解してもらうために、私は心を込めて話した。
お別れ会の日、私は母の写真の前に立ち、自分の気持ちを整理した。「お母さん、あなたがどんなに愛していたか、そしてどれだけ私たちを支えてくれたか、忘れないから」と心の中で呟いた。その瞬間、涙がこぼれ落ち、私は心の底から母の存在を感じた。

現在の思いと供養の仕方

あれから3年が経ち、手元供養のセットには、仏具のネットサイトで購入した花立と蝋燭立て、そして母が身につけていた十字架のペンダントを飾っている。毎年、命日には沢山の花を捧げ、母との思い出を心に刻む。クリスマスの喧騒の中で、私は母の存在を感じながら、彼女の愛を忘れないように努めている。
今年のクリスマスも、街は華やかに彩られている。私は花立に新しい花を挿しながら、母との会話を思い出していた。「お母さん、これが好きだったよね」と言いながら、彼女がいつも笑顔で見ていた光景を思い出す。母は私に、「クリスマスは家族が一緒にいることが大切なのよ」と教えてくれた。その言葉が、今も私の心に響いている。
この季節の喧騒は、私にとって母との絆を再確認する大切な時間だ。彼女が愛したことを思い出し、私たちが繋がっていることを実感する。母が生きた証を、私たちの手で大切に受け継いでいくために、これからも母の思い出を大切にし、彼女が喜んでくれるような生き方をしていきたいと心から願っている。

未来への願い

母との思い出を胸に、私はこれからの人生を歩んでいく。時には寂しさや葛藤に襲われることもあるだろう。しかし、母が教えてくれた「愛と絆」を心に抱いて、私は一歩一歩進んでいく。彼女の存在は、私にとって永遠の灯火であり、どんな困難があっても乗り越えられる力を与えてくれる。
クリスマスの喧騒が静まる頃、私は母に感謝の気持ちを伝えながら、彼女が愛した季節を共に過ごすことを誓う。どんな時も、母の愛を感じながら、これからも生きていく。

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